#45 『さまよう魂たち』

『さまよう魂たち』 THE FRIGHTENERS
1996年/アメリカ、ニュージーランド合作
共同脚本・監督:ピーター・ジャクソン
出演:マイケル・J・フォックス、トリニ・アルバラード、ジェフリー・コムズ

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 この映画、なぜかあまり語られない。こういう映画をこそ、語りたい。演者も導演も素晴らしいのに何故か話題にならない、時代の流れにぽっかり置き忘れられた映画。

 まず演者。
 主演はマイケル・J・フォックス。パーキンソン病を患ってから第一線を退いてはいますが、かつての仕事仲間の作品には今でもちょこっと顔を出す。やっぱりコメディ映画の彼が大好きだけど、『再会の街』(88)なんてシリアスな映画もよかった...。
 若々しい印象がやはり強いマイケルが、年を重ねて渋味を出したらどんな俳優になるのか...どんな演技をするのか...なんて考えたことありませんか?その答えがここにあるかもしれません。かっこいいんだけど、愛嬌は失っていない。好きな役者だ。
 そんなマイケルの、今のところ最後の主演作。

 そして導演。
 本作はピーター・ジャクソン監督のハリウッド進出第一作。ニュージーランドで3本撮って、映画ファン(特にホラーファン)から熱狂的に支持されての、本作。ではその3本はというと...
 『バッド・テイスト』(87)…低予算で製作されたホラーコメディ。原題のbad tasteは「悪い味」って意味ではない。「悪趣味」と訳す。低予算の弱みはあるが、それ故に愛すべき一本。
 『ブレイン・デッド』(92)…言わずと知れたホラーコメディの金字塔。血糊の使用量は恐らく映画史上No.1。ただ、過激なスプラッタ描写の底辺には幼児虐待などのテーマが隠されていて、一筋縄ではいかない一本。何回見たかな?分からないぐらい見てます。
 『乙女の祈り』(94)…ニュージーランド時代最後の作品。前作とは打って代わって、出てくる死体は一体のみ。思春期の少女二人を主人公に描く、大人の寓話。
 で、本作の次に発表されたのが

 『ロード・オブ・ザ・リング』三部作。

 まさに転換期の一本と言える。

 マイケル・J・フォックスとピーター・ジャクソン。この組合せを実現したのは勿論ロバート・ゼメキス※。言わばハリウッド製清潔ファンタジーの代名詞と言えるこの人が、『乙女の祈り』を見てジャクソン監督に惚れ込んだというが

 ...あやしい。

 なぜなら本作のテイストは『乙女の祈り』というよりは、やはり『ブレイン・デッド』(後半のハイスピードな展開とかね)に近く、ゼメキスの視点としてはやはり、

 『ブレイン・デッド』はマニアに見せときゃいいが、この腕、グロ描写抑えれば立派過ぎる娯楽映画を作りよる...

 てな感じだったのではないでしょうか。『ブレイン・デッド』の血しぶき、グロ描写の量に反比例するかのように、あの映画には突き抜けた明るさと、観客に対し「作りものを見ている」という安心感がある。そのバランス感覚の見事さを持ってすれば、ハリウッドメジャーのエンターテイメントも作り得る。そこに目をつけたんでしょうね。

※【ロバート・ゼメキス】…『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズの監督。シリーズ終了後もマイケルを起用することがある。最新作『クリスマス・キャロル』にも声の出演をしてるとか。

 物語...
 田舎町に住むマイケルは、交通事故をきっかけに幽霊を見たり、話したりすることができた。その能力を利用してインチキ霊媒師を営むマイケルだったが、町では謎の変死が続出し、どうやら犯人は人間以外のようで...

 疲れきってやさぐれたマイケルがイカす。ミニチュアの町を疾走するカメラがB級感たっぷりでたまらない。
 ピーター・ジャクソンのバランス感、ミックス感覚の素晴らしさを証明するには絶好の作品かもしれない。
 洒落にならない連続殺人鬼、よく見てみると容赦のない人体破壊。ネタ自体は決してメジャーではないが、オブラートにうまーく包み込む。
 例えば最近の映画では連続殺人鬼が登場するとその動機や犯人の生い立ちなんかをやたらと掘り下げる。作品に深みをもたせる狙いかもしれないが、それを深みと呼ぶかは疑問だ。映画は娯楽。悪役は悪役であればいい、とこのくらい突き抜けた演出なら気持ちがいい。
 
 本作はアメリカ資本だが、実際の撮影は監督の故郷ニュージーランドで行われたらしい。この話だけでも、ピーター・ジャクソンの転換期を捉えた一本と言える。
 ちなみに本作以降、ピーター・ジャクソンは原作ものかリメイクしか撮っていない。近々公開される新作も原作ありだとか。本作のようなB級ホラーの香りを放つ、オリジナル脚本の映画が見たい、と思うのは私だけではないと思うが、もはや大物になりすぎたのかね...。

 いろんな意味で大切な一本です。

 注:本文作成後、ピーター・ジャクソンのニュージーランド時代の映画がもう2本あることが分かりました。『ミート・ザ・フィーブルズ/怒りのヒポポタマス』(89)と『コリン・マッケンジー もうひとりのグリフィス』(96)です。失礼。


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